2019年12月
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一平 |
/ 作:太田垣康男 / 発表年:1993年/ |
/ 掲載雑誌: 週間漫画アクション/巻数:全18巻/ |
/ 掲載時期:1993年〜1998年/ |
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【本作品とモグラの出会い】 今では古本屋の双葉社のコーナーにひっそりと置かれていることが多い作品。全巻揃っている店は少なく、連載時に読んでいないと知らない人が多いのではないだろうか?古本屋で知らない漫画を順番にあさっていたときに出会い、惚れ込んだ作品。 【作者紹介】 尾瀬あきら氏、山本おさむ氏のもとで修行の後、「マイレボリューション」でデビュー。漫画アクションで「王様気分で行こう!」を描いた後、初の長期連載となったのが本作「一平」である。後にスペリオールにおいて「MOONLIGHT MILE」を連載し、一躍メジャーとなった。ヒーローではなく、力一杯今を生きる”人間くさい”人物を描くのがうまく、派手さはないが心に残る作風が特徴だろう。 |
面白い漫画と聞くと、どんなイメージを持つだろうか?華々しく戦闘をしたり、ワクワクするような冒険をしたり、試合に感動的な勝利を収めたり、最高のギャグセンスであったり … そんな様々な”華”を思い浮かべる人が多いのではないだろうか?しかし、そういった”華”がなくても面白い作品もあるのだ。本作品はその代表例だろう。本作品には非現実的なヒーローがいるわけでもなければ、奇跡のような現象が起こる訳でもない。現実にいそうな一人の青年、弱さもあれば限界もあるそんな一人の青年の日常生活が描かれているだけである。それでいて、読んでいるとその世界の中に読者は引き込まれてしまい、主人公と一緒になって喜んだり悲しんだりしてしまうのだ。こういった作品が連載できたのは青年誌ならではの良さであろう。
本漫画を連載することとなった漫画アクションは変わった雑誌である。1967年に創刊された本雑誌は、当時では初の青年漫画誌であり、貸本劇画出身の漫画家を起用することで青年漫画ブームの火種となった。しかし、その後、各出版社が独自の路線で青年誌を作りあげ、月刊誌なども出る中で次第に主役の座を奪われていく。そして1990年代には本雑誌は看板漫画とその他の連載漫画の路線が全く違うという異常事態を迎える。
その違和感は1990年代後半に看板漫画が「クレヨンしんちゃん」(臼井義人)から「軍鶏」(橋本以蔵/たなか亜希夫)に推移していった事を思い浮かべるだけで容易に実感出来るだろう。(結局2003年に漫画アクションは休刊、2004年からはメインとなる漫画を変えて月2回連載の雑誌としてリニューアルを図ることとなる。)本作品はそういった移行期に連載された漫画でもあり、これまでのように連載雑誌から漫画の位置づけを論じるのは困難である。
本作品がどのような作品であるかを未読者に伝えるに当たって、上記の理由より雑誌を背景とした説明は難しい。そこでこの作品を説明するには、作者「太田垣康男」氏の略歴からが良いだろう。既述のように太田垣先生は尾瀬あきら氏、山本おさむ氏の元で修行を積まれたようである。そして、この両作者ともに”人間”というものを描ききる名人でもある。尾瀬あきら氏は松本めぐむと名乗っていた時代から「初恋スキャンダル」や「リュウ」などを描いていた時代までは少年漫画作家であった。1988年に作風を一新、名著「夏子の酒」を描くこととなる。この後の作風は青年誌にある人物を描くものであり、本作品に通じるところがある。山本おさむ氏も「どんぐりの家」、「聖ー天才・羽生がおそれた男」、「天上の弦」(現在連載中)などの名作を生みだしており、いずれも本作と相通じるところを感じる。これらの作品のファンの方々なら是非、本作品も一読していただきたい。
内容についても少し触れておこう。剣道に興味を持ちその技を磨いてきた主人公が、どうしても勝つことのできない人に追いつくためとその人と同じ警察官になるところから話は始まる。『剣業一致』・・・文中に出てくるこの言葉こそが本作品を象徴する一言だろう。剣を仕事に生かし、また仕事が剣の腕を高める「剣業一致」・・・この銘の通りに事件を超えるたびに人間的にも成長していく、その過程が生き生きと描かれている。なお、話の後半は次第にやや非現実的な事件も出てくるのが残念だが、これは長期連載漫画の宿命であろう。
さて、本作者は2005年現在ビッグコミックスペリオールで「MOONLIGHT MILE」を連載中である。最後に本作品と次作でもあるこの作品を比較して締めたいと思う。「一平」は連載された雑誌の中に同系統の漫画がなく、あまり知る人がいない状態のまま終わってしまった。それに対し「MOONLIGHT MILE」はスペリオールで人気を博し、現在の青年漫画の中では知名度は比較的高い位置にある。そして同じ作者の漫画であるが実は少し違うタイプの作品である。
「一平」は”人”を描く作品としていい作品ではある反面、尾瀬あきら氏や山本おさむ氏の枠から大きくははみ出せていない作品であった。これに対して、「MOONLIGHT MILE」はこれらの作風を基礎地として、まったく違う独自の作風へと昇華した作品である。舞台を宇宙にした夢と情熱を感じさせる”華”のある作品であるのに、それでいてこれまでの”人”を描く手法を残し、ファンタジックなはずの世界観にどこか人間くささを感じさせる作品となっている。
このような違いのためか、どちらの作品も良いという人もいるものの、批評者によって「一平」時代は良かったという意見もあれば、「MOONLIGHT MILE」のファンだけど「一平」はそれほど好きではないという意見もあるようだ。モグラとしてはそれぞれの作品が全く違うベクトルを有した作品であり、同列に扱うこと自体に無理があると思うし、どちらの作品もその分野としての名作だろうと思う。
また、「MOONLIGHT MILE」のファンの方々にも、このような作者の背景を知って読んでもらえれば本作品の良さがより伝わるのではないかと思いここに紹介させて頂いた。
文中の漫画データ一覧
タイトル |
作者 |
連載雑誌 |
巻数 |
出版社 |
マイレボリューション |
太田垣康男 |
漫画アクション |
1巻 |
双葉社 |
王様気分で行こう! |
太田垣康男 |
漫画アクション |
1巻 |
双葉社 |
MOONLIGHT MILE |
太田垣康男 |
ビッグコミック スペリオール |
H17年 連載中 |
小学館 |
クレヨンしんちゃん |
臼井義人 |
漫画アクション →月刊まんがタウン |
H17年 連載中 |
双葉社 |
軍鶏 |
橋本以蔵 たなか亜希夫 |
漫画アクション →イブニング |
H17年 連載中 |
双葉社 →講談社 |
初恋スキャンダル |
尾瀬あきら |
少年ビッグコミック |
全18巻 |
小学館 |
リュウ |
矢島正雄 尾瀬あきら |
少年サンデー |
全7巻 |
小学館 |
夏子の酒 |
尾瀬あきら |
モーニング |
全12巻 |
講談社 |
どんぐりの家 |
山本おさむ |
ビッグコミック |
全7巻 |
小学館 |
聖ー天才・羽生 がおそれた男 |
山本おさむ |
ビッグコミック |
全9巻 |
小学館 |
天上の弦 |
山本おさむ |
ビッグコミック |
H17年 連載中 |
小学館 | |
注)上記の文章は赤字の部分にカーソルを合わせると簡単な解説が表示されます。
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